−火山噴火

「読書ノート」みたいなものをと思いついたのは三年前の暮れだったが、二冊ほど書いて日本沈没第二部でつまずき(前編の感動が中断)、ついそのままにしてしまった。再開のきっかけは、「山と渓ときのこと酒と」(相互リンクのサイト)さんの「極楽蜻蛉の読書ノート」の豊かさと、「火山噴火」の結論の簡明さに魅了されたからである。
日本列島には108の活火山がある。噴火を科学の力でやり過ごし、災害を減らす知恵(減災=防災ではないことに注目)と、噴火のあとには、長い期間にわたり火山の恵みが享受できる。このことを「災害は短く、恵みは長い」という法則として論が進む。
筆者は、災害を短く(減災)する立場から「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と、「火山噴火とはどんな現象か」「噴火のタイプとその特徴」「噴火は予知できるか」の章立てで書き進む。噴火とは「岩石が高温でドロドロに溶融したマグマが地上にでる」現象を指す。地上に出るとマグマは溶岩と呼ばれる。その出方によって色々なタイプがあるが、地下のマグマの動きを正確に予測できれば噴火を予知できる。最近ではGPSの精度が向上し地殻変動をミリ単位に、しかもリアルタイムに掌握できるため、噴火予知の精度は格段に向上したという。
日本にある108の活火山のうち、群馬県には浅間山(A)・榛名山(B)・草津白根(B)・赤城山(C)の四つが含まれる。榛名山草津白根と同じランクなのは実に意外である。
さて、噴火が始まったらどうするか(四章)。「火山の噴火では、異常が見つかってからでも、災害への対策はたいていの場合じゅうぶんに間に合う」突然起きる地震との違いである。火山噴火の防災では「ハザードマップ」が威力を発揮する。火山ごとに固有の特徴を持った噴火現象が繰り返されるから過去の例を沢山集めて研究すると火山ごとの噴火のパターンが見えてくる。「地質学には、過去は未来をとく鍵である」という言葉があるとも。全編が「火山の噴火を止めることは不可能だが、被害を減らすことは確実にできる」という論に貫かれている。
噴火予測の成功例として有珠山(2000年噴火)をあげている。群発地震の発生が確認され、いったんおさまった。有珠山は、火山性の地震が減った直後に噴火を起こした例があり、ここで避難が開始された。その二日後に23年ぶりの噴火が始まり一年半余を経て終息が宣言されたが、被害者は皆無だったと。
第五章は「火山とともに生きる」と題して、噴火収束後の恵みを沢山紹介している。そして、「災害という観点で振り返ってみると、伝承と神話には人間が自然を征服する発想がまったくなかったことに気づく。海に囲まれた火山の島では、昔から火山とともに暮らす知恵があったのである」「その後の私たちは、科学技術の急速な進歩によって、自然をコントロールできるような錯覚を持つようになった」。神を敬う時代には当たり前であった自然を畏れる気持ちの薄れが、安易な環境破壊への道に踏み込ませたのではないか、と問いかけている。
あとがきの次の一文(要旨)がそれを裏付けている。副題の所以であろう。
地震と噴火は自然災害の双璧だが、実は地震より火山の噴火のほうが人類にとってははるかに影響が大きい。地震の被害で文明が滅びたことはないが、かつて巨大噴火が文明を丸ごと滅ぼしたことがある。火山学者は、自然の途方もない力を常に感じながら研究をつづけている。したがって、大地を理解し尽くしたとか自然を征服するなどという考え方が的はずれであることを、もっとも良く認識しているのかもしれない。従来、火山災害を逃れる行為は「防災」と呼ばれてきた。しかし、文字どおり災害を防ぐことは不可能で、人間のできることは災害を減らすことに留まる、と。