−照葉樹林文化とは何か

今年の年賀状にあった「1万歩/日」に触発され「近所歩き」をはじめた。初日に歩いた早川沿いが縁で周辺の水路沿いをなぞるのが日課となった。むかし遊んだ田圃っ川の多くが地下に潜り田圃の大半が宅地や畑地に変貌した。わずかに残った水路などもだいぶ荒れている。
照葉樹林文化」という言葉は初耳だが、散歩の余韻が昔の水田風景と重なり、「稲作の起源」みたいなテーマに興味がわき、図書館でこの本を借りてきた。
そんな動機だから読み進むのに苦労した。「西アジアの半乾燥地帯の草原に起源を持つ西欧文明」に対して「東アジアの照葉樹林帯の文化は、山と森の生み出した文化」であり「日本文化の伝統……は緑深い母なる森の照葉樹林(で生まれた)」という。その照葉樹林帯は「ヒマラヤ山地の中腹(海抜1500〜2500メートル)あたりから東方へ、ネパール、ブータン、アッサムの一部を通って、東南アジア北部山地、雲南・貴州高地、長江流域の江南山地をへて西南日本に至る東アジアの温帯」に広く分布すると。
(照葉樹林帯)を特徴付ける食品では、ネバネバした特有の味覚を持つ「モチ性」の食品が注目される。イネ科穀物澱粉(アミローズ20%、アミロペクチン80%)は粘らないが時々、突然変異でアミロペクチン100%の粘りのあるモチ澱粉を持つ固体が出現する、これを根気強く栽培しモチ種という特有の品種が生み出された。しかも、モチ種は稲だけでなくアワやキビやトウモロコシにまで及び、ついにモチ麦までが出現した。ネバネバな食べ物の「好き嫌い」は、文化圏を分ける目印でもあると。
お祝ごとの際にオコワ(赤飯)を土産にする風習は、古き良き時代の名残にとどまらず、東南アジアにいまなお広く残るネバネバ文化のひとつなんだそうだ。
お米は炊くが、もち米は蒸(ふ)かす。この調理法の違いは、モチゴメは普通に炊くと炊飯のなかに糊層ができて対流がうまくゆかないからとか。これなど雑学クイズにもってこいではないか。
全編は三部構成、7章にわたり“あとがき”を含めると314ページにも及ぶ。最初のほうを興味本位でふれていたら紙幅が尽きた。稲作の伝来には程遠いが、またの機会に譲りたい。