−安堵 卵のふわふわ

著者は宇江佐真理(Mari Ueza)講談社。初出誌(03〜04年の小説現代)
この著者に引き合わせてくれたのは、「赤旗」(1/23、B版9面【文化学問】)に載った“にしん漬”のエッセイである。文中の「うまい!」という表現とその行の置き所に思わずため息が洩れた。
さっそく著者の紹介欄をよりどころに検索、図書館に予約を入れた。手にした「卵ふわふわ−八丁堀食い物草紙・江戸前でもなし」は期待に沿う読み物だった。
40ページ程度の短編のそれぞれに出現する“食い物”はどれもさほど珍しいものではないが、展開の小道具として巧みであるだけでなく、もしかたら主役なのかも知れないとさえ思うほど存在感のある“食べ物”達だった。
ちなみに目次は、「秘伝 黄身返し卵」「美艶 淡雪豆腐」「酔余 水雑炊」「涼味 心太」「安堵 卵のふわふわ」「珍味 ちょろぎ」である。
八丁堀の小役人一家を舞台にそこはかとない世情や家族模様をちりばめ、当時の食文化を編みこむ様はまさに芸術的。お題を行頭に入れるおりこみ都都逸みたいに、各編に配置した“食い物”を大活躍させる展開がなんとも楽しい。「恐れ入谷の鬼子母神」である。
図書館に頼む折、ちょっとした手違いで4冊(髪結い伊佐三捕物余話二冊他)も借りてしまい、まだ三冊も残っているがちっとも苦にならないのが嬉しい。